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検証・ルウム戦役 「始まりの終わり」と「終わりの始まり」

はじめに

ルウム戦役と聞いてあなたが思い浮かべるイメージとはどのようなものだろうか。多くの人が思い浮かべるイメージは大凡次の様なものであろう。
「戦力比率は三対一と圧倒的に連邦軍有利」「しかし連邦軍は大艦巨砲主義(註1)に基づく旧態然とした編成」「対するジオン軍はMSを主力とし、質で連邦艦隊を上回った」「結果、ルウム戦役でジオン軍は圧倒的勝利を収めた」
どうだろう。程度の差こそあれ、大体こういう認識をもつ人が多いのではないかと思う。

しかし果たして本当にそうだろうか。ならば何故ジオン軍は作戦目的であったコロニー落しを断念してしまったのだろう?また、敗走する連邦艦隊の追撃すら行なわなかったのはどういう事なのだろうか。


本稿は一年戦争開戦からルウム戦役に至るまでを概説的に述べていくとともに、これらの疑問に対して出来うる限り合理的な解説及び検証を加えていく事をその主目的とする。

 

 


一章、一年戦争開戦から緒戦まで


まず、1年戦争が始まったのがUC0079年も明けて間もない1月3日のことである。既に戦闘準備を完了していた公国軍A軍集団及びB軍集団が連邦軍パトロール艦隊に一斉攻撃を開始した。これは完全な奇襲となり、ジオン艦隊の警戒に当たっていた連邦パトロール艦隊は有効な反撃すら行なえぬままほぼ全滅した。

因みに、この攻撃直前にジオン公国総帥ギレン・ザビが行なった連邦政府への宣戦布告は実質三秒間に満たないものであり、そのことを指して「三秒間の宣戦布告」と後世にまでその悪名を轟かしているのは周知の事実である。ただ、宣戦布告という慣習が第二次世界大戦後は事実上空文化しているのも確かであり、道義的、法的にジオン軍の責任を追及することは可能であっても、連邦軍が奇襲を許した失態の責任をジオン軍に転嫁することまでは不可能であろう。連邦軍とてジオン艦隊の集合や配置はある程度掴んでいる筈であり、それが意味する危険性についても認識していた筈である。つまるところ連邦軍指導層は全く油断していたと言っても良いだろう。そして、その代価は前線の将兵達が血でもって贖うことになるのである。


実際、連邦軍の対応は決して迅速とは言えず、戦争勃発が全艦隊に通達されたのは宣戦布告の実に90分後であった。実質的に上部組織から何らの指示も受けないまま戦闘に突入した部隊も少なくなく、緒戦はジオン軍が完全に主導権を握った形で推移していく事になる。

状況は各サイドでも大差なく、艦隊を含む連邦軍駐留部隊はその殆どがジオン軍の奇襲を許していた。各サイドの連邦駐留部隊は勇戦するものの、各所で補給線及び連絡線が寸断され、統一的な作戦行動すら満足に行なえない状況下にあっては有効な防衛戦は行ない難かった。

また、コロニー群を防衛しながらのジオン軍の迎撃を強いられる(つまり戦略・戦術ともに大きな制約を受ける)連邦軍駐留部隊と違って、ジオン軍はあらゆる兵器と戦闘機動を使用する事が可能である。ジオン軍にはコロニーの被害を極限しようなどという考えは一切無い(どころかコロニー自体攻撃目標の一つである)ので当然といえば当然なのだが、この差は大きいだろう。

各所で孤立しながら、補給・連絡が途絶した状況でコロニーを守って苦闘する連邦軍部隊。対するジオン軍は核兵器を含むあらゆる兵器をコロニーの損害などお構い無しに使って、あらゆる方向から攻撃してくる。結果は明らかであった。各サイドの連邦駐留部隊は、ある者は残存の駐留艦隊とともに脱出し、またある者は脱出が不可能であった為に降伏した。そして大部分の者はコロニーを守るため最後の瞬間まで戦ったのである。
結局、開戦から僅か四十時間でサイド1・2・4の三つのサイドが壊滅し、死者はコロニーの住民だけで約28億人に上った。

死者の数も問題だが、ジオン軍は民間人(つまり非戦闘員)に対して毒ガスや核兵器を使用しての無差別兵器を使っての組織的虐殺行為を行なっている点に留意する必要がある。当然このような行為は国際法によって厳しく禁じられて(註2)いる。これは戦場で偶発的に起きる虐殺事件とは全く性質が違い、厳しく糾弾されるべき行為なのは間違いないだろう。

但し、戦争犯罪の追及は基本的に戦勝国が主体となって行なわれることが多く、必ずしも公正な裁判が期待できる訳ではない。逆に言えば、ジオン軍が如何に非道な作戦を取った所で、彼らが勝者となってしまえば彼らの冒した戦争犯罪などは事実上消滅してしまうだろう。それもあって、いや、だからこそジオン軍はあらゆる手段を用いて戦争に勝とうとしたのである。


では実際にジオン軍はどのような算段を持って勝利を目指していたのであろうか。これについては様々な資料に記載されているので、整理して以下に列挙する。

第一段階:開戦直後の奇襲で各サイド駐留の連邦艦隊を撃滅する
第二段階:適当なコロニーを奪取して連邦軍本部ジャブローにコロニー落しをかける
第三段階:ジャブローの喪失によって戦意を喪失した連邦政府に降伏を迫る


資料によって細部が異なる場合もあるが、基本的にはこの三段構えの作戦に基づいてジオン軍が戦争の早期終結を目指したことは間違いないであろう。因みに、地上侵攻作戦は飽く迄これら一連の作戦が失敗した場合の保険であり、その作戦準備もコロニー落しのそれに比べて全く進んでいないのが実情であった。これについては後に詳述する。


さて、これらコロニー落しに関するプランを検証して見ると幾つか気付く点がある。以下にそれらを列挙する。

 

まず、果たしてジャブローに対するコロニー落しが成功するか否か?という根本的な問題である。勿論、ジオン軍自身は成功させる自信があるからこそこの作戦を採用したのであろうが、実際の一年戦争を振り返って見ると、果たして予想通りの結果が得られるかどうか甚だ疑問である。

何しろ、ジオン軍は一年戦争も後半になって、シャア中佐(当時)が指揮するマッドアングラー隊が連邦軍第十三独立戦隊を尾行し、ジャブローの宇宙港を発見することに成功するまでジャブローの正確な位置を掴んでいないのである。目標の正確な位置を掴まないままの質量兵器攻撃に一体いかほどの効果が望めるというのだろうか。勿論、落下場所の多少の差異などほぼ無効化してしまうだけの威力をコロニー落しは持っている。が、ことジャブローに関してはそう簡単にはいかない。なんと言ってもジャブローは通常の施設と違い、完全な地下要塞である。コロニーの落着により発生する、所謂「衝撃波」の効果は殆ど見込めないと言っても良い。そして、ジャブローの存在理由自体が「大量破壊兵器による攻撃に備えるため」である。当然各施設は十分な耐震設計に基づいて建設されており、その他の各種防御についても考えられる限り最高のものが施されているのは間違いない。ジャブロー「そのもの」にコロニーが直撃しない限りこれらの完全破壊は困難であろう。

言うまでも無く、地上の各種施設は甚大な損害を蒙るであろうし、地球上の酸素の大部分を生成するアマゾン森林地帯の壊滅は地球環境に多大な影響を与えるだろう。しかし、それは長期的に連邦政府に打撃を与え、連邦軍の継戦能力を奪う事にはなっても、短期的には連邦軍の抗戦能力に致命傷を与えたとは到底言えないのである。

また、コロニー落しに対する連邦軍の妨害についての考慮も不十分であったと言わざるを得ない。艦隊を主力とした連邦宇宙軍の抵抗については当初から予想されていた事でもあり、実際に大規模な護衛艦隊が編成されて連邦艦隊を迎え撃っている。しかし、連邦軍はこれに加えて南極及び北極の軌道ミサイル基地からのミサイル攻撃が可能であった。実質上、このミサイル攻撃に対する手段をジオン軍は持っておらず、実際にも連邦艦隊の妨害に加えてこのミサイル攻撃により「アイランド・イフィッシュ」が大きな損害を受けていることを考えれば、この点に関してもジオン軍の認識は甘かったと言わざるを得まい。


そして、最大の問題は「たとえジャブローが壊滅しても連邦政府が降伏する保証が何処にも無い」という事である。勘違いしてはいけないが、ジャブローは飽く迄“連邦軍の”本部であって、“連邦政府の”それではない。断言するがジャブローは連邦政府の意思決定機関ではない。連邦政府の最高意思決定機関は連邦議会であり、それを補佐するのは各種の行政府である。連邦軍は戦争遂行を含む、各種の国策に意見を陳述することは出来ても、それらに干渉をする事は許されない。そう、たとえジャブローが壊滅して連邦軍の抗戦能力が激減したとしても連邦政府が徹底抗戦を決意すれば戦争は終わらないのである。

これはシビリアンコントロールの大前提であり、近代的な国家では至極当然の事として受け止められている。しかし、当時のジオン公国はギレン総帥自らが軍籍(階級は大将)を持ち、国政と軍の統帥を一体化させていたのに加えて、国防軍そのものもキシリア・ザビ少将の突撃機動軍とドズル・ザビ中将の宇宙攻撃軍に二分されている(註3)という、一種の「軍閥国家」状態であった。確かに彼らの常識に従えば、“軍=国家の意思決定機関”という図式が成り立つ訳であり、ジャブロー壊滅に固執するのも理解できる。しかし、先述したように“地球連邦”という国家の政体はジオン軍のそれとは全く異なる。連邦軍は連邦議会を頂点とする連邦政府の意思によりその力を発現する一種の官僚組織であり、それ以上でもなければそれ以下の存在でもないのである。「コロニー落し」という作戦を形作っていたジオン軍指導層の認識そのものに大きな問題が有ったと言えるのではないだろうか。


ともあれ、ジオン軍は実際にこの思想に基づいて作成された作戦綱領に従って一年戦争を戦い抜くことになる。これが紛れも無い史実であった。

 

 


二章、一週間戦争の顛末とそれがもたらしたもの


奇襲によって各サイドの連邦軍駐留部隊を駆逐したジオン軍はサイド2に於いてアイランド・イフィッシュを奪取、護衛艦隊とともに地球に向けて進発させた。一方の連邦軍は1月5日に至って軌道計算によりコロニーがジャブローに向かっている事を割り出した。開戦から三日目の事である。当初の混乱から立ち直りつつあった連邦軍は迅速に対応、即座に集結可能地点に在った各連邦艦隊に集結命令を下した。

しかし、逆に見ればこの命令は連邦艦隊が各所にその戦力を分散していた事の証明とも言える。ジオン軍の脅威を考えればこれはいかにも危険な行為なのであるが、以下の理由によりある程度は致し方ない面もあるのもまた事実である。


連邦軍に課された任務は膨大な数に上る。各サイドの防衛・治安維持に月軌道周辺、及びサイド3周辺の哨戒。木星資源船団の護衛。そして地球軌道の安全確保。ざっと挙げただけでもこれだけあり、しかもこれは宇宙軍のみのものである。これらの任務を遂行するには、それらの場所に部隊(しかもそれは艦隊でなくてはならない)を派遣する必要がある。どうしても戦力を分散せざるを得ないのである。対するジオン軍はこの時点ではア・バオア・クーにソロモンの両要塞も完成していないし、月面都市郡への進駐も行なっていない。要するに戦力を分散させる必要がない。この差は実に大きいものである。

これは連邦軍であるが故の問題であると同時に、軍隊がいかに政治的な存在であるかとの好例であると言える。技術的に可能であっても、政治的な問題で装備等が制限されることは珍しくないし、戦術的な問題点や脅威が分っていても、自らの存在理由を無視してまでの戦力配置や装備改変は組織制度上行なうことは出来ないし、すべきでもない。良くも悪くも地球連邦軍はシビリアンコントロールの徹底した近代軍隊だったのである。


さて、連邦軍上層部はルナツーに集結した艦隊に核ミサイルを搭載し、コロニー破壊に差し向けることを決定した。この艦隊がティアンム中将指揮する第四艦隊を基幹とした連合艦隊(といえば聞こえは良いが、実際には急造の寄せ集め艦隊である)である。1月5日のうちに艦隊は出撃、戦場に向かっている。同時に南極と北極の軌道ミサイル基地からのミサイル攻撃も立案されているが、実際にミサイルが射出されるのは7日になってからである。

特筆すべき事として、連邦軍の残存艦隊がコロニー及び公国軍護衛艦隊に対して最初の攻撃を行なっている。これも1月5日のことである。常識的に考えればこれは無謀な行為としか言いようがない。しかし、ティアンム艦隊はまだ遥か遠くであり、コロニーの地球到達までに間に合うかどうか分らない。誰かが時間稼ぎをする必要があったのだ。そして、彼らは無謀と知りつつ敢えて攻撃を行ない、そして全滅したのである。翌6日には連邦軍第8ミサイル雷撃艦隊と連邦軍第4戦隊、7日には連邦軍第8戦隊が攻撃を仕掛けている。

彼らの攻撃が実際にいかほどの効果を上げたのかははっきりしない。しかし、彼らの犠牲は決して無駄ではなかった。そう、ティアンム艦隊が間に合ったのである。


1月8日、三日前に派遣が決定し、ルナツーより急遽出撃したティアンム艦隊が遂にコロニー及び公国軍護衛艦隊を補足した。既に地球は目前であり、まさに土壇場での到着であった。直ちにティアンム艦隊は攻撃を開始、キリング・J・ダニガン中将指揮する護衛艦隊と激しい艦隊戦に突入した。因みにこれは開戦五日目にして始めて発生した本格的な艦隊戦である。

激戦の末、結局ティアンム艦隊は約70%の損害を受けて後退する。しかし、形の上では連邦軍の敗北、という事になっているこの戦いであるが、実際には戦術的にも痛み分けに近いものであった。勿論、戦略的には間違いなく連邦軍の勝利である。

その根拠であるが、まずジオン艦隊の損害の大きさが挙げられる。特にMSの損害が目立つのが特徴である。無敵の新兵器と思われがちなMSであるが、実際には航宙戦闘機と比べて武装や装備でアドバンテージを持っている訳でもなく、売りの機動性にしても小回りで優る以外は大差ない。無敵の兵器など有り得ないのである。

加えて、ジオン軍はMSの汎用性を悪い方向で活用してしまっている。この時のジオン軍はコロニーの減速作業に多数のMSを投入している。元々MSは作業用ロボットから進化したものだし、複雑な作業を行なえるマニピュレーターまで持っている。手間のかかる減速作業にMSを投入したいジオン軍の気持ちも理解できない事はないのだが、結果的にこれは失策であった。

MSは元々長時間の活動が出来る兵器ではない。しかし、公国軍護衛艦隊のMSは減速作業を行ないつつ、連邦艦隊が現れた際にはそれを迎撃するという、二重の任務を課されていた。勿論作業中だからといって連邦軍が攻撃を遠慮する訳はないので、母艦に戻っての補給や補修などは全く期待できない。そこでジオン軍はMSに冷却剤タンク(註4)を装着させた上で各パルスエンジンの装着や外壁補強などを行なわせていたのである。

しかし、この冷却材タンクの装着により確かにMSの行動時間は劇的に延びたのだが、一つ大きな問題があった。つまり、巨大な質量を背負わされたMSの機動性もまた劇的に低下してしまったのである。

これは考えて見れば当然の事である。冷却材タンクなど戦闘時にはただのデッドウェイトでしかない。そして“機動性の低い機動兵器”に存在価値など無い。公国軍MS部隊は連邦軍艦艇の対空砲火の好標的となって大損害を蒙ってしまうのである。連邦軍との戦力差を補うためのMSのである筈なのに、わざわざその性能を低下させる本末転倒な運用をジオン軍は行なっていたことになる。

この辺がジオンという国家の限界と言えるのかもしれない。彼らもMSの機動性低下に伴う危険性ぐらいは認識していた筈である。しかし、現実問題としてMSをコロニー減速作業に投入しない限りはブリティッシュ作戦自体が成り立たなかったのである。作業機を充実させればこんな矛盾に悩む必要も無いのだが、彼らはMSや艦艇などの正面戦力を揃えるので手一杯だった。そして、それすらも満足に行なえなかったのである。

物質的な損害ばかりではない。この時ジオン軍は貴重な熟練パイロットを多数失っている。いまさら説明する必要も無かろうが、MSの戦闘力は操縦者の技量に大きく依存する。大戦末期のジオン軍MSパイロットの技量は目を覆うばかりのものであった。実際、機体の性能向上による質的上昇より、操縦者の技量低下による質的低下の方が遥かに進行が早いものである。他の資源同様、人的資源も有限なのだ。

以上の点が連邦・ジオン両軍が痛み分けであったとする根拠である。


次は戦略的に連邦軍が勝利したという根拠だが、これは唯一つにして単純明快である。

 

「ジオン軍は作戦目的であったコロニー落しに失敗した」


ただこの一言に尽きる。

ティアンム艦隊の奮戦や迎撃ミサイルの攻撃によってアイランド・イフィッシュは予想以上の損害を受けてしまった。結果、コロニーは地球に落下はするものの、劣化が著しく、アラビア上空で崩壊。本来の目的地ではなく、オーストラリア大陸のシドニーに落着した。これにより、ジオン軍が得たものは“史上最大の虐殺者”として歴史に名を残す栄誉だけである。副産物として連邦地上軍の大混乱と連邦海軍の壊滅があるが、飽く迄副産物に過ぎない。実際にコロニーが地上に落下するのは10日の事で、それまでは両軍とも半ばコロニーのジャブロー落着を信じていた節も有る(註5)のだが、今となってはどうでもいいことであった。

ジオン軍は作戦に失敗した。これが逃れ得ぬ史実である。


余談になるが、公国軍護衛艦隊司令のダニガン中将はジャブロー攻撃失敗の報を聞いて愛銃で自決を図っている。彼には既にこの戦争の行方が見えていたのかもしれない。

 

 


三章、ルウム決戦


アイランド・イフィッシュの落着をもってジオン軍の進撃は一時停止した。事実上、コロニー落としに全てを賭けていたジオン軍には使える手札が既に無く、対する連邦軍もいまだ宇宙艦隊の再編成が終わっていない現状では能動的な作戦行動は望むべくも無かった。結果、一時的に戦闘行為が沈静化、地球圏に奇妙な自然休戦期が訪れたのである。しかし、これは連邦・ジオン両軍にとって次なる決戦の為の準備期間に過ぎなかった。

連邦軍は1月12日に最高幕僚会議を召集し、今後の方針を協議した。最高幕僚会議はジオン軍が再びコロニー落しを行なう可能性が高いと判断、宇宙空間の監視網強化を決定した。これによりジオン軍は緒戦のような奇襲効果を得る事が極めて難しくなったと言えるだろう。

一方のジオン軍はコロニー落としの失敗を受けて作戦の練り直しを求められた。しかし、現実問題として彼らはコロニー落とし以外に連邦を屈服させる術を持っておらず、結局は再びコロニー落しを行なう事で方針は決定した。連邦軍最高幕僚会議の推察は正鵠を得ていたのである。ジオン軍首脳部もこの期に及んでは作戦企図の秘匿はもはや不可能と判断したのだろう、可能なだけの戦力を動員して予想される連邦艦隊の迎撃を粉砕しようとしたのである。


1月13日、建設途上の宇宙要塞ソロモンより宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将自らが直接指揮する公国軍第一連合艦隊がサイド5に向けて出撃した。これにグラナダから出撃した突撃機動軍艦隊も合流し、その戦力は戦艦4隻、巡洋艦78隻、各種武装艦艇34隻に膨れ上がった。更に後方には22隻の輸送艦が付き従い、艦隊全体で2920機のMSと400機のガトル型航宙戦闘機を輸送した。一年戦争中、ジオン軍が編成した中では最大規模の艦隊である。

対する連邦軍の戦力であるが、第三艦隊を基幹とする連邦軍第一連合艦隊が急遽編成されている。第三艦隊は「あの」レビル中将(当時)が司令官を務める艦隊で、開戦時いち早くサイド5宙域に進出し、公国軍に組織的抵抗を見せた唯一の艦隊である。これがルナツーに集結した残存艦艇を加えて連合艦隊として再編成され、1月14日にサイド5防衛の命令を受けて出撃している。途中、各方面部隊よりの増援艦隊も次々と合流、第一連合艦隊は史上空前の規模となった。旗艦のマゼラン級戦艦「アナンケ」以下、戦艦48隻、巡洋艦163隻、掃海艇等の小型武装艦艇118隻、輸送艦及び補助艦84隻という大艦隊である。しかし、肝心要の航空戦力は各種戦闘機約300機とジオン軍のそれに比べて遥かに劣勢な状況にあった。したがって艦艇数でジオン軍を圧倒する連邦艦隊もその実戦力は必ずしもジオン艦隊を上回っているとは言い難く、よく言われる「三倍の戦力」が全くの虚構に過ぎない事は明らかであろう。


1月15日、既にサイド5に到着して11バンチコロニー「ワトホート」に核パルスエンジン装着作業を開始していたジオン軍は全く予想外の事態に遭遇した。前日にルナツーを出撃した連邦艦隊が予想を遥かに上回る速度で来襲、その先鋒艦隊がジオン艦隊に向けて砲雷撃戦を開始したのである。この事態に際し、ドズル中将は直ちにMS部隊の発進を命じ、コロニー及び作業中の部隊を守りつつ反撃に転じた。しかしレビル中将は予備兵力(第10艦隊)を投入、一時公国軍を圧倒する。航空兵力の傘が無い割に連邦艦隊が善戦している訳だが、この時のジオン軍は迎撃部隊、コロニー護衛部隊、そして作業部隊と部隊を三分している。単純計算でこの時、連邦艦隊に突入してきたMSの数は約千機となる。加えて連邦側の航空兵力は全て戦闘機であることから、その全てが艦隊直衛を投入されていたと思われるので、これらを併せて考えるとむしろこの状況は妥当とも言える。ジオン軍としては結果的に兵力分散の愚を冒したことになった。


とは言え、全体として連邦艦隊が圧倒的な航空劣勢下にあるのには変わりがない。連邦軍も事前の索敵である程度は公国軍の陣容を掴んでいた筈である。しかし彼らは不利な状況を省みず出撃を強行した。彼らはコロニー落としが行なわれた時の被害と自らの全滅とを秤にかけたのだろう。そして彼らは決断した。


「航空戦力が有ろうと無かろうと、全力で出撃してジオンのコロニー落しを阻止する」

 

開戦からわずか二週間足らずで地球圏全人口の半数近くが死亡している。連邦軍将兵は自らの命を糧にしてでも戦う決意を固めていたのである。そして、その決意に報いるかのように勝利の女神は連邦艦隊に微笑みかけており、戦況は連邦軍優位に進んでいた。

しかし連邦艦隊に微笑みかけていた勝利の女神は気まぐれだった。ドズル中将がこのままコロニー落としに執着する事は一週間戦争の再現になると判断、作業の中止と作業部隊とコロニー護衛部隊を含む全戦力の前線投入を命じたのである。これによって彼我の航空戦力の格差は十倍以上に開いた事になる。連邦の直援機を突破したジオン軍MSは次々と連邦軍艦艇を血祭りに挙げていった。

対艦MS小隊の装備する280㎜バズーカの弾頭は核弾頭である。これで攻撃されては、いかに堅固な装甲を誇る戦艦とはいえ被弾箇所に関係なく爆沈必至であった。ただ、乱戦の為核爆発に巻き込まれてのジオン軍MSの同士討ちも頻発したという。

こうして攻守所変え、ジオン軍が連邦艦隊を圧倒し始める。史上最大の艦隊戦の帰趨はジオン軍に大きく傾き始めたのである。しかし賢明な読者諸氏はもうお気づきであろう。ドズル中将が全戦力の前線投入を命じた瞬間に、ジオン軍はコロニー落としという戦略目標を放棄しているのである。ブリティッシュ作戦の失敗が事実上決定した瞬間である。しかし、両軍がその事実に気付くのには時間が必要であった。激戦の最中、目の前の敵を倒す事以外を考える事は出来なかったのである。


1月15日に開始されたルウム戦役は日付が変わって16日になっても断続的にまだ続いていた。しかし、連邦艦隊は15日を終える段階で、既に戦力の50%以上を喪失しており、もはや継戦能力は限界に達しようとしていた。そして決定的な破局が連邦艦隊に訪れる。第一連合艦隊総旗艦「アナンケ」が突撃機動軍所属ガイア小隊、つまり、あの「黒い三連星」の攻撃により撃沈(註6)され、指揮官レビル中将が捕虜となってしまったのである。

これにより連邦艦隊は統制を失い、徐々に壊走を始めた。この絶望的な状況を救ったのが次席司令官のロドニー・カニンガン准将である。彼は統制を失い壊乱しつつあった残存艦艇に的確な指示を与え、生き残った艦艇の大部分を脱出させる事に成功した。しかし、カニンガン准将自らは乗艦であるマゼラン級戦艦「ネレイド」を反転させ殺到するジオン軍部隊の前に立ち塞がった。彼は自らを撤退する味方艦隊の盾としたのである。この時、准将は傍らの幕僚に「レビル将軍ならこうしたとは思わんかね?」と一事呟いたと伝えられる。奮戦の末ネレイドは轟沈、カニンガン准将は壮絶な戦死を遂げた。


何とか撤退を成功させたとはいえ、連邦艦隊の損害は甚大だった。戦艦36隻、巡洋艦139隻が大破・撃沈、小型艦艇や輸送艦はほぼ全滅、参加兵力の実に八割が失われた計算である。まさに壊滅と言うに相応しかった。しかし、不思議な事に、これだけの戦果を挙げながら公国軍は追撃を行なわず、更なる戦果拡大を求めなかった。コロニー落しを断念した以上、連邦宇宙軍の撃滅以外に戦争の早期終結を可能とする手段は存在しないのにである。

そう、実はジオン軍もまた壊滅的な損害を受けており、とても連邦艦隊を追撃できる状況ではなかったのである。ジオン艦隊は戦艦2隻が大破、巡洋艦70隻以上が大破・撃沈しており、純粋な戦闘艦艇の損害率では連邦艦隊のそれを上回るほどであった。また、特筆すべきはMS部隊の損害が一週間戦争にも増して大きい事である。

その理由であるが、先述したように、ジオン軍が緒戦の段階で部隊を大きく三分していた事がまず挙げられる。これは戦術的には作業部隊とコロニー護衛部隊に属するMSが遊兵と化していた事に他ならない。全戦力の僅か三分の1で連邦直衛機の迎撃を受けつつ猛烈な対空砲火を掻い潜っての対艦戦闘を強いられた迎撃部隊所属のMSが苦戦するのは当然であった。このような不徹底な攻撃では戦果は上がらないし、損害も増すばかりである。

次の理由として、MSと航宙戦闘機の能力差が世間一般で思われているほど格差が無い事が挙げられるだろう。実際、最新鋭機である”FFS-3「セイバーフィッシュ」”などは強行偵察に現れるMS-06Eを易々と撃墜している。E型の性能はジオン軍自身がS型、つまり赤い彗星ことシャア・アズナブルの乗機として名高い指揮官用ザクと同等と発表しているのにである。また、最新の映像資料(註7)ではMS-09Rを撃墜したり、MS-14の後ろを取って、今まさに撃墜せんと猛追撃をかけている映像などが確認できる。十分な数を揃える事さえ出来れば航宙戦闘機でも充分制空権の確保は可能だったであろう。

そして、最大の理由が巡洋艦を始めとするジオン艦隊の壊滅である。何故これがMSの損失に結びつくか疑問に思う方もおられるだろうが、以下の事を考えて欲しい。ジオン軍の戦艦や巡洋艦は全て「MS母艦化」されているのである。母艦を失った艦載機はどうなるだろうか。まさか歩いて帰る訳にはいくまい。母艦を失ったMSはまさに「宇宙の迷子」となるのである。搭乗員はある程度救助できても、機体は全て喪失と考えるべきであろう。

この時のジオン艦艇は運用効率を無視して最大限にMSを搭載しているので、ムサイ級で12機程度(コムサイ搭載分含む)、チベ級やグワジン級ならさらにそれ以上の数を艦載している。単純計算で1000機近いMSが失われた事になるのである。そしてこれに更に戦闘での損失分が加わる。ジオン軍も艦隊、MS部隊共に壊滅状態だったのは間違いないであろう。


こうしてルウム戦役は連邦・ジオン両軍の壊滅という形で決着した。両軍共に宇宙艦隊の損失が余りにも大きく、戦争後半になるまで、両軍共に大規模な艦隊行動を取る事すら出来なかったのである。

 

 


四章、ルウム戦役時の連邦宇宙軍とジオン軍

 


ここで連邦軍とジオン軍の部隊編成について検証する必要が出てくる。まずは連邦軍のほうから検証を進める。


まず、何故連邦艦隊はジオン軍を遥かに上回る艦隊規模でありながら航空戦力で十分の一以下という劣勢に甘んじなければならなかったのだろうか。具体的にこの点に言及している資料は筆者の知る限りでは存在しない。よって、以下の文章は筆者独自の見解と検証がその大部を締めるので、この点については十分に注意して頂きたい。


艦隊を編成する場合、最優先されるのは巡洋艦である。巡洋艦は巡航性に優れ、適度な防御力と火力を持つまさに”汎用艦”である。現代はまさに航空戦主体の時代であるが、空母だけで編成された艦隊などは存在しないし、これからも存在しないであろう。巡洋艦はまさに艦隊の中核なのである。

そして戦艦は艦艇の中で最も攻撃力と防御力に優れ、戦闘時には他の艦艇を圧倒する戦闘力を見せる。実際問題として、戦艦に抗するには戦艦をもってするしかないのである。正面からの砲火の応酬になれば、より強力な戦艦をより大量に揃えた艦隊が勝利する。これは戦艦という兵器を人類が手に入れた瞬間から永遠に続く真理である。

また、長期航海や点在する拠点などのパトロールなどをしなければならない軍隊にもっとも必要とされるのは長い航続力と良好な居住性を提供できる大型艦である。連邦宇宙軍の任務・性格上、巡航能力の高い戦艦と巡洋艦は必須であり、しかも各サイドや地球軌道艦隊等にもれなく配備しなければならない。空母が後回しにされるのはある意味しょうがないのである。

また、拠点近く、つまり各サイドや軍事基地近くで迎撃を行えば基地航空隊の参加を見込めると目論んだ可能性もある。しかし、これはあまり現実的な案ではない。結局のところ、基地航空隊は基地航空隊であり、艦隊のような機動戦力ではない。平たく言えば自分達の行動圏内でしか行動できないのである。一年戦争のような全地球圏規模で展開されるような総力戦の前ではこの案は机上の空論でしかなかった。現実問題として各サイド間を無補給で行き来できる航宙機など存在しないのだから。史実においても基地航空隊は自分達の防空任務で手一杯でとても艦隊直援どころの話ではなかったのだが。


次は何といっても予算の問題である。意外に思うかもしれないが、連邦軍は常に慢性的な予算不足の状態にあった。宇宙軍以外の三軍の装備更新などは常に遅れ続けたし、一年戦争で戦死や負傷した軍人に対する年金の支給にも事欠く有様だった。高性能艦であるラー・カイラム級機動戦艦の就役数がなかなか増やせず、連邦宇宙艦隊の主力がクラップ級とサラミス級のハイ・ローミックス艦隊であり続けた理由も、根本的にはこの資金難にあるといって良い。

また、先述したように連邦軍は文民統制下にある近代軍隊である。よって、いくら軍が空母の必要性を訴えたところで、議会が予算を通さなければそれまでなのである。この辺が軍事的独裁国家であるジオン公国との大きな違いである。ジオンのような独裁国家ならば軍の主張丸呑みの国を傾けるような予算も通るのであるが、議会制民主主義の一つの頂点である地球連邦においてはそれは有り得ない事である。

また、軍備というものは一朝一夕に整える物ではなく、長い時間をかけて適宜修正を加えつつ整備するものである。例えば、サラミス級とマゼラン級の就航はUC0070年の事であるが、これら新艦艇が連邦各艦隊に行き渡って連邦宇宙軍の装備更新が一段落するのは一年戦争開戦直前になってからである。”ビンソン計画”によって短期間に数百隻の艦艇を一挙に建造した連邦とのあまりの落差に困惑する方もおられようが、そもそも、平時と戦時の違いを忘れてはいけないだろう。例えば、旧世紀の第二次世界大戦の直前、当時の大日本帝国では日中戦争が始まった為、軍事費が一挙に前年の十倍(註8)になっている。同じように連邦も戦争時には軍事費は激増している筈である。国家の存亡が懸かっているのに金の出し惜しみなどしていられないからだ。その時々の状況によって軍備に対する考え方は変わってくる。何度も言うが、軍隊とはどこまでも政治的な存在なのである。


とは言え、一年戦争開戦までには連邦宇宙艦隊は戦艦や巡洋艦などの主力艦の装備更新はほぼ完了していた訳である。さて、次に増強されるのは何であろうか?そう、空母などの航空戦力である。既にアンティータム級やトラファルガー級の初期生産型は就航していて運用実績も良好だったし、ペガサス級(註9)の竣工も間近に迫っていた。連邦軍はまさに空母の量産に取り掛かろうとしていたのである。


まさにこの事こそがジオン軍をして、戦争準備が不完全なまま開戦に踏み切らざるを得なかった原因であろう。

あまり意味のある想定とは言えないが、想像してみて欲しい。もし連邦艦隊が自らの陣容に似合うだけの空母を持っていたとして、ルウム戦役が真の意味で三倍差の戦力で戦われていたらどうなるだろう。単純に考えて連邦艦隊は10000機近い航空戦力を持つ計算になるのである。戦闘は一方的なものになるであろう。MSの殆どは連邦艦隊に辿り着けないだろうし、逆にジオン艦隊の直援機は艦隊を守りきれない。そして連邦軍の戦艦は悠々と火力・装甲ともに劣るジオン艦艇を釣瓶撃ちにするのである。ジオン軍にとっては想像もしたくない、まさに悪夢である。最悪の事態を避ける為にも彼らは多少の問題点には目を瞑らざるを得なかったのである。


連邦軍は兎も角、ジオン軍が準備不足だったという事には異論を持つ方が多いだろう。確かに連邦軍に比べればジオン軍の戦争準備は遥かに進んでいた。だからこそ諸戦であれだけの戦果を挙げる事が出来たのである。しかし、それはあくまで比較対象の問題である。ジオン軍に求められていたのはもっと”高い次元”での戦争準備なのだ。以下に幾つかの実例を挙げる。


まず兵器開発の遅れである。具体的には、本来ジオン軍は開戦までには主力機をMS-06Fにするつもりだった。しかし、実際の開戦時の主力機はMS-06Cであり、F型の就役数はまだ僅かであった。加えて既に旧式化していたMS-05もかなりの数実戦参加しているのは周知の事実である。

次にコロニー落としが失敗した時に遂行される地上侵攻作戦時に絶対に必要となる地上戦用MS、つまりMS-06Jの開発・量産が全く進んでいない。資料によってはUC0078年10月の段階で80機程度のJ型の生産が完了していたという説もあるが、おそらく誤りだろう。何といってもJ型が初めて実戦投入されたのは3月11日の第二次地上降下作戦からなのだから。

MA(モビルアーマー)の開発も開戦の半年前に始まったばかりで、ある程度の規模での部隊運用は結局最後まで実現できなかった。

本格的な大型空母ドロス級(註10)の開発がはじまったのは開戦の僅か一ヶ月前の事である。実際、計画された三隻のうち、実戦投入できたのは二隻のみである。


兵器関係はまだまだ有るのだが、きりが無いのでこの辺にする。さて、次であるが、これはある意味兵器開発の遅れよりも更に深刻である。何せ戦争遂行そのものに関わる問題だからだ。それは補給能力である。


実は開戦直前にジオン軍が今次大戦の輸送計画の立案を行なっている。当初この立案に中心人物として携わっていたのがユライア・ヒープ中佐(註11)である。ジオン軍きっての後方支援の専門家であった。以下は彼の報告書の一部を抜粋した物である。
「現在のジオンの後方支援能力のまま大規模な軍事活動を行った場合、軍事的には有利であったとしても、その為に必要な戦時経済を維持する事には限界がある」

彼は婉曲ながらも開戦の無謀さを数字を使って指摘したのである。しかし、この報告はザビ家を始めとするジオン軍指導層を激怒させた。結局、彼は輸送計画の立案メンバーから外され、地上侵攻作戦開始後に中佐に昇進させられると同時にオーストラリアに左遷され、二度と輸送計画に携わる事は無かったのである。とかく独裁者は独善に陥りやすいものではあるが、これでは有為な人材も活かす事は出来ない。

更に悪い事に、輸送計画に不備があることは分かっていても、誰もそれを言い出せなくなってしまった。誰しもヒープ中佐の二の舞はご免だからである。そんな状況下で立案された計画がまともな筈は無く、ザビ家一党の満足するような当り障りの無い予想や計算が羅列するだけのただの作文にすぎなかった。完全な思考停止でもはや作戦と呼べる物ではなかったのである。

地球侵攻作戦のかなり早い段階からジオン軍は補給に苦しむ事になるが、それは決して故無き事ではなかったのだ。

結局の所、独裁者の周りに集まるのは狂信者かさもなくば太鼓持ちのような連中ばかりとなっていく。仮にまともな献策や提言をする者がいても、独裁者の方が煙たがって遠ざけてしまう。まさに悪循環である。


ジオン軍は組織として既に腐りきっていたのである。

 

 


総括


さて、結局開戦からルウム戦役までの戦いが持っていた意味は何であろうか。おおよそ次のように結論付ける事が出来るだろう。


ジオン軍はコロニー落としに失敗し、「ジャブロー攻略」という戦略目標を達成出来なかった。これで事実上戦争の早期終結というジオン軍の目論みは崩れ去った事になる。彼らは戦争を終結させるために南極での停戦交渉会議では虚勢を張って強気に会議を推し進めるものの、せっかく捕虜にしたレビル将軍をあっさりと奪還されて全ては水泡に帰す。ジオン軍が想像以上に弱体化している内情を暴露された上に、自分達に決して有利とはいえない戦時条約を締結する羽目になるのである。

”南極条約”(註12)の内容は

①核兵器、生物兵器、およびコロニー爆弾などの大量破壊兵器の使用禁止②木星エネルギー船団、月面恒久都市、中立地域への攻撃禁止③捕虜の人権保護、虐待の禁止

の三つである。切り札であったコロニー落としも禁止された上、核兵器の使用も禁止されている。これはビーム兵器を運用できないジオン軍MSが事実上、連邦軍艦艇に対して無力化したことを意味する。通常炸薬のザクバズーカでさえ急所以外には有効打を与える事も出来ないのに、主兵装の105㎜や120㎜口径のマシンガンなどはまさに豆鉄砲としか表現できないであろう。。


結果、戦争は持久戦の様相を見せ始める。その為、ジオン軍は早く終わらせたい戦争を「続けるため」に資源を求めて地球降下作戦を行なわざるを得なくなった。完全に”目的”と”手段”が入れ替わっているのである。地上に侵攻したジオン軍も占領地域だけは広いものの、連邦地上軍を撃滅した訳でもなく、戦況を打開する切り札が有る訳でもなかった。何しろ彼らは最終目標であるジャブローの正確な位置すら掴んでいなかったのだから。兵力不足は当然としても、準備不足も甚だしい。ある戦闘でジオン軍は雷を「連邦軍の新兵器」と誤認して恐慌を来たし、退却してしまうという失態を演じている。ジオン軍は地球の気象に対する最低限の知識すら持ち合わせていなかったのである。


結局、戦争は消耗戦の様相を呈していた。そうなると連邦の30分の1の国力しか持たないジオン軍に勝機はない。それでなくともジオン艦隊の消耗は著しかった。ジオン軍の公式発表でも公国軍の戦力が開戦当初のレベルにまで回復するのは八月に入ってからである。但し、同時期には既にムサイ級の戦時簡易生産型の建造がスタートしている。多分に大本営発表的な側面を持つジオン軍の公式発表ですらこうなのである。同時期の連邦ではビンソン計画とV作戦という巨大プロジェクトを同時に、しかもその他の反抗作戦を停滞させる事無く遂行している。総力戦を戦うにはジオン公国の経済力はあまりにも脆弱だった。


およそ「敗軍の条件」をここまで兼ね備えた軍隊も珍しい。ブリティッシュ作戦が失敗した時点でジオン公国の敗戦はもはや逃れ得ぬ運命だったといえる。

しかし、慢心したジオン軍首脳部はそうは思わなかった。MSの威力を盲信し、確固たる戦略方針も無いまま地球への侵攻を開始してしまった。第二次世界大戦の敗戦国達と全く同じである、初めから終わりまで。独裁国家の末路とはみな同じようなものなのかもしれない。理由の無い勝利や敗北は有り得ない。そして成算の無い戦争は博打以下である。連邦軍は勝つべきして勝利し、、ジオン軍は負けるべくして敗北したのである。


ルウム戦役は連邦にとっては「始まりの終わり」であった。そしてジオンにとっては「終わりの始まり」だったのである。

 

<了>


註1:誤解されている向きも多いが、大艦巨砲主義とは戦艦万能主義ではない。あくまで艦艇はより大型であればより大型で強力な兵装を搭載でき、強力である、という意味である。
註2:このような国際条約は既に存在する。地球連邦が既存の国家群を基にして構成されたという設定を重んじる以上、こういった国際条約も人類全体で普遍化していると見るべきだろう。
註3:ジオン軍の分裂はキシリア・ザビ大佐とドズル・ザビ少将(共に当時の階級)の国防軍の将来像に対する意見の相違から生じた。共に自説が通らなければ軍籍を抜けるとまで言った両人を妥協させる為、ギレン・ザビが国軍の二分化を提案、それぞれを両者の指揮に委ねたのである。因みに、ギレン総帥の親衛隊を更に別個の軍と見立て、「ジオン軍の三分化」を提唱する向きもある。
註4:宇宙機の行動時間の大きな制約となっている物に、「発生する熱をどう処理するか」という問題がある。機体サイズの限界から、MSは根本的にこの問題を解決できず、結局はこのような冷却材タンクを外装するしか行動時間の延長は図れなかった。艦艇の場合は船体に放熱フィンを装備する事により、かなりの巡航能力の獲得に成功している。だが、一年戦争時までにこの技術を確立していたのは連邦軍のみである。ジオン軍は結局最後までこの技術を確立できず、連邦軍に遅れる事約二十年、シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン軍の主力艦、M(ムサカ)級になって漸く放熱フィンが標準装備されている。
註5:既にこの時連邦軍はジャブローからの避難作業を進めていた。これにより、仮にコロニーがジャブローに落着したとしても少なくとも人的損害は局限できる筈であり、この点からもコロニー落としの効果については疑問符が付きまとう。
註6:この映像はゲーム「ギレンの野望」で確認できる。蛇足であるが、この映像ではレビルはいまだアナンケの各砲塔が射撃を続行しているにも拘らず、そそくさと脱出艇で脱出を試みている。つまり総員退艦を発令せずに自分だけ逃げ出している訳で、これはかなり問題のある行動であろう。
註7:DCソフト「ガンダムバトルオンライン」のOPムービーより。
註8:因みに、この時帝国陸軍ではちょうど次期主力戦車のコンペを行なっており、軽量廉価の”チニ車”と高価で高性能な”チハ車”が採用を競っていた。当時の世界的な流れとして、当初はチニ車が優勢であったが、日中戦争の開戦とそれによる軍事費の増加によりチハ車が採用される事になる。これが後の”97式中戦車”である。兵器開発が如何に政治的なものかをあらわす好例と言えるだろう。
註9:当初は宇宙空母として開発が進んでいた。
註10:本格的な空母であるドロス級であるが、就役の遅さから戦局には殆ど影響を与えていない。一年戦争後半での奮戦も、要塞防衛の為の”MS発進基地&浮き砲台”としての運用の結果であり、本来の空母の真価である高機動性と攻撃力を発揮したとは言い難かった。
註11:元々はコロニー間や地球との間の物資輸送を行う企業体のマネージャーのような仕事をしていた人物。開戦が秒読み段階になると、彼は後方支援の専門家としてジオン軍に少佐として招聘され、後方支援の専門家育成の教官のような事を行っていたらしい。このため階級は単なる少佐であるが、特殊技能の持ち主としてザビ家にも名前程度は知られていたようだ。相対的にジオン軍の後方支援組織が弱かった為、本来は教育のみを担当するはずだったヒープ少佐だが、結局輸送作戦の立案にも携わる事になったのである。
註12:蛇足であるが一年戦争終戦までにジオン軍は三ヶ条の南極条約全てに違反するという三冠を成し遂げている。しかし、多くのジオン派の人間は連邦の「南極条約違反」を声高に(しかもかなり的外れに)主張する。これはあまりにもダブル・スタンダードが過ぎるのではなかろうか?

 

参考資料

文献資料

『機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑~1年戦争全記録~』 バンダイ エンターテイメントバイブル
『MSVコレクションファイル[地球編]』 講談社
『MSVコレクションファイル[宇宙編]』 講談社
『講談社ポケット百科シリーズ32モビルスーツバリエーション1ザク編』 講談社
『ガンダム公式百科事典』 講談社
『データコレクション②機動戦士ガンダム~一年戦争編~』 メディアワークス
『データコレクション③機動戦士ガンダム~一年戦争外伝』 メディアワークス
『データコレクション⑨機動戦士ガンダム~一年戦争外伝2』 メディアワークス
『ガンダムメカニクス①~⑦』 ホビージャパン
『ジオン新報 秘匿された記録』 一年戦争史編纂委員会
『機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で 上・下』 角川スニーカー文庫


ゲーム

『ギレンの野望SS版』 バンダイ
『ギレンの野望PS版』 バンダイ
『ガンダムバトルオンライン』 バンダイ

映像作品

『機動戦士ガンダム』 サンライズ
『映画版機動戦士ガンダムⅠ・Ⅱ・Ⅲ』 サンライズ

 

本稿を執筆するにあたって上記及びその他の資料を参考に致しました。