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チベ級かく戦えり ジオン軍が戦艦を捨てた日

 今回はジオン公国軍の所有する艦艇の中で最も不人気で評価も低いと思われる「チベ級重巡洋艦」についてのお話です。このチョイスに疑問を持つ方もおられましょうが、実際のチベ級は宇宙世紀における戦闘艦艇の中でまさにエポックメイキングな存在であり、後の世に与えた影響も大変大きいものなのです。決して私がコンスコン少将のファンだから取り上げた訳ではないのです(笑)
 ではその旨十分理解した上で私の話を聞くように。いざいざ。

 

 まずチベ級が誕生するのはUC0070年六月の事です。当時は既に地球連邦とジオン公国の対立は深刻なものとなっており、両国は軍事力の増強に余念がありませんでした。その連邦軍との軍拡競争にジオン軍が自信を持って送り出した一番手がこのチベ級だったのです。
 ジオン軍はこのチベ級を主力として連邦軍に対抗するつもりでした。それは当初チベ級が「戦艦」として分類されていた事でも明らかです。

 そう、この時代のジオン軍は戦艦を中心とした艦隊決戦によって連邦軍と雌雄を決するつもりだったのです!


 しかし、チベ級の就航から僅か三ヵ月後、連邦軍は「七十年代軍備増強計画」によってマゼラン級戦艦とサラミス級軽巡洋艦の二種類の新型艦を就役させます。図らずも連邦軍も主力戦艦を開発していたのです。
 マゼラン級の出現によってジオン軍が大きな衝撃を受けた事は想像に難くありません。何しろあらゆる性能でチベはマゼランに劣るのです。言い換えれば僅か三ヶ月でチベ級は旧式化し、その存在意義を失ってしまったとも言えます。そのショックたるや旧世紀に於けるドレッドノートの誕生とそれに伴う戦艦革新に匹敵するものだったでしょう。

 さあ、この恐るべき相手にジオン軍はどう立ち向かうのでしょうか?

 

 

明日の為にその壱:現行のチベ級を大量生産することにより連邦艦隊に対抗する

 ・・・いきなりダメダメですね。個艦性能で劣る上、ジオンと連邦の間には歴然とした国力差があります。最悪、一階級上の相手と三十分の一の劣勢下で正面から殴り合わなければならないのです。嫌過ぎですね。私なら逃げます。よって却下。


明日の為にその弐:マゼラン級を上回る新型主力艦を開発する

 量で敵わないのなら質で対抗しようという奴ですね。批判されやすいこの考え方ですが、方法論としてはそれ程間違っている訳ではありません。むしろ生産力で劣る国にとっては、兵器や兵員の質的向上は至上命題でもあるのです。
 無論いいこと尽くめではなくて、新兵器の開発に費やす時間や資源もバカになりませんし、敵も同じくより高性能な兵器の開発に尽力している筈です。こちらも場合によってはプランその壱と同様な状況に陥る可能性があるのです。
 しかし、一つのアプローチである事は確かでしょう。


明日の為にその参:兵器体系、戦術を根本から見直す

 これはアレですね。つまり「ルール」を変えてしまおうという奴です。
 つまり従来の主力艦同士の砲撃戦により雌雄を決するというドクトリンを放棄し、全く新しい戦術と兵器により相手が同じ土俵に上がる前に決着をつけてしまおうというのです。
 ジオン軍のそれはMSという万能攻撃機と、それに対応する為の全艦艇の航空母艦化、そしてそれらを用いた一大航空決戦思想です。当時の連邦軍の航空兵力が弱体である事を考えると、確かに一考の余地はあるでしょう。
 但し、それは自分達が今まで蓄積してきたノウハウを全て捨てる事を意味します。やはり逡巡はあるでしょう。そして、その新兵器と新戦術がいつまでもジオン軍の専売特許である保障も無いのです。やはりこれも一種の賭けといえますね。

 


 プラン壹は論外として、実際のジオン軍でもプラン弐支持派とプラン参支持派の間で激論が戦わされました。すなわちドズル・ザビを中心とする艦隊派とキシリア・ザビを中心とするMS派です。一応はギレン総帥の妥協案提示により、両者はお互い独自の軍を率いてそれぞれの信ずる理想を実践に移したという事になっています。しかしそれは建前に過ぎず、実際にはMSの主兵化による航空決戦思想にジオン軍が傾倒していったのは周知の事実です。

 結果、ジオン軍は全ての艦艇にMS運用能力を付与する事に決定しました。戦艦であるチベ級を始め、ミサイル艦であったパブア級にまで航空母艦としての機能を求めました。そう、ジオン軍は「戦艦」という艦種を捨てたのです。
 後に就航するグワジン級は戦艦の名を冠してはいますが、それに必要とされる能力を全く満たしていません。恐らくは計画されていたであろう、ジオン軍次期主力戦艦とは全く別の存在なのです。
 航空決戦を主眼に置いて設計されたジオン軍艦艇はそのどれもがMS運用能力と引き換えに火力や防御力を従来艦と比べて犠牲にしており、戦闘艦としては極めて脆弱な存在になっていたのです。


 このある意味歪な編成と戦術をもってジオン軍は運命のUC0079年1月3日を迎えます。


 この時ジオン軍の分艦隊レベルの旗艦はその殆んどをチベ級が務めていました。元が戦艦である彼女がジオン軍艦艇の中では比較的強力な対艦・対空火力を持ち、指揮通信能力も優れていた為です。戦艦として落第した彼女は、航空決戦の尖兵となる事でライバルであったマゼラン級に一泡も二泡も吹かせることに成功したのです。


 しかし彼女が活躍できたのも戦争中盤まででした。緒戦の敗北から学んだ連邦軍はMSを始めとする航空兵力の本格的整備に乗り出したのです。
 MSや戦闘機は軍艦に比べれば遥かにハンディな存在です。つまり、より生産力の差が明確に現れるのです。その事実はジオン軍の先行分野である筈のMSでさえ大戦後半には質量ともに連邦軍に圧倒されていた事でも明らかでしょう。
 もうMSも艦艇もお互いを助ける事なんて出来ません。有利だった航空兵力が同等、或いは劣勢になった場合、連邦軍艦艇に火力・防御力で劣るジオン軍艦艇はどうなるか。結果は明らかでした。
 ジオン軍艦艇は連邦艦隊と正面から撃ち合わざるを得なくなっていました。ルールを変え、自分の有利な土俵で戦っていた筈のジオン軍は何時の間にか連邦軍の土俵の上で戦っていたのです。勿論、既に戦艦であることを放棄しているチベ級はマゼラン級と渡り合う事など出来なかったのです。

 チベ級とジオン軍は負け続けました。強力な打撃力と航空兵力を併せ持つ連邦軍機動艦隊に対して、そのいずれの能力でも劣るジオン艦隊では抗すべくも無かったのです。

 しかしチベ級は戦い続けました。前近代的な艦隊決戦主義の遺物としてジオン軍内部でも白眼視されてきた彼女だけが唯一、強力な火力によって何とか艦隊決戦を行えるだけの能力を備えていたのです。
 艦隊防空に、対艦戦に、そしてMS母艦としてチベ級は戦い続けました。彼女こそは一年戦争で最も旧式な艦でありながら、最も勇敢に華々しく戦った艦だったのです。


 そして終戦。全ての義務を果たした彼女はジオン公国の消滅とともにその役目を終え、静かに表舞台から消えていく筈でした。

 

 しかし彼女にはまだ安息の日は訪れませんでした。ジオン公国の後を引き継いだジオン共和国がその国防軍で彼女を再び使用する事に決定したからです。これは地球連邦がジオン共和国に新規に艦艇開発を行う事を禁止した為ですが、理由はどうあれチベ級はその後も約二十年に渡って活躍を続ける事になります。
 新型艦開発禁止の代替として連邦軍からの技術提供もあったのでしょう。ジオン共和国で運用されていた改良型のチベはサラミスの主砲クラスの両用砲と大型の放熱フィンを装備し、その艦形を一変させていました。一年戦争の戦訓は、対艦戦闘に加えて対空戦闘をも重視せねばならない事、そして長大な航続距離がいかに重要なことかを示していました。そして、それら全ての要求に応えることが出来たのはチベ級だけでした。結局最終的にはジオン軍は彼女の戦闘力に頼らざるを得なかったのです。


 そしてUC0099年9月14日。ジオン共和国においてネオジオン残党と共和国軍一部将校によるクーデターが発生。クーデター勃発から一週間後、連邦政府が在留邦人の保護を名目に軍の派遣を決定。市街戦の末、クーデター軍を即日鎮圧します。
 しかし、この結果ジオン共和国はもはや国家としての責任を果たす事ができない事を内外に露呈しました。結果、翌年には共和国政府は自治権の放棄を発表。ジオン共和国は宇宙から消滅します。

 これにより共和国軍もまた解体の運びとなり、足掛け三十年近くに渡って宇宙を駆け続けてきたチベ級もようやく全ての義務から解放されることになりました。
 その後彼女らがどうなったのかは判然としません。或いはスクラップにされたのかもしれないし、或いは爆破処分されたのかもしれません。しかし、ようやく彼女が安息の日々を送れるようになった事だけは確かです。

 ほぼ同時期に連邦軍から急速に姿を消していく艦艇がありました。その誕生の時からチベ級のライバルであり、彼女と戦い続けたマゼラン級です。90年代に入って連邦軍がクラップ級とラー・カイラム級の本格的配備を始めた結果、やはり老兵であるマゼランもまたその役目を終えつつあったのです。図らずも三十年来のライバル達は寄り添うように歴史の表舞台から消える事になったのです。
宇宙世紀を駆け抜けた老艦達は誰に見届けられる事もなく、静かにその姿を消していきました。


 チベ級はジオン軍の戦争方針の不確定さと戦術的定見の無さによりその存在意義を問われ続けた不幸な艦です。

 しかし、誕生した時に期待された形とは違えど、彼女は立派に果たすべき義務を果たしました。チベ級もまた立派に果たすべき責務を果たした勇艦であり、名艦だったのです。

 

<了>