アニメ&ゲームの雑学・豆知識

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板垣恵介『餓狼伝』の感想、登場人物、あらすじなど

『餓狼伝』とは

古流柔術竹宮流の使い手である丹波文七が強い男と戦い続ける、リアル志向の格闘マンガ。

原作は夢枕獏先生が書いているが、板垣先生がマンガにするにあたってかなり独自のテイストを取り入れている。原作を大きく裏切って作品そのものを変えてしまうことを原作クラッシャーと呼ぶそうだが、まさにそれ。私は原作を知らないのでいいのだけど、原作ファンの人の中には呆れたり怒っている人も多そうだ。

板垣恵介というと『グラップラー刃牙』『バキ』『範馬刃牙』の作者として有名だ。一連のバキシリーズ(と呼ばせてもらう)はトンデモ格闘マンガとでも分類すべきぶっとんだ展開で、ライオンよりもシロクマよりもシャチよりも巨象よりも強い格闘士達が闘う内容となっている。

そういう板垣先生ならではのぶっ飛んだ展開はあるものの、『餓狼伝』はまだリアル志向のマンガで、純粋に「闘争そのもの」や「闘争精神そのもの」を描けているところが素晴らしい。変なヒューマニズムなんか入る余地がない。

あらすじ

【1~2巻】丹波文七vs梶原年男

丹波文七がプロレスラー梶原年男に挑み、敗北するところから物語が始まる。物語が開始した時点で丹波文七には甘えがない。本格的な、実践派の、生粋の格闘家。一つの道を究めようとするのとも違って、強くなるという一点へ性欲よりも強い気持ちを向けている。その時点で、このマンガが語りたいことは人物の成長なんかではないわけだ。精神の方はだいたい理想的なファイティングマシーンのそれとして完成しているのだから。

丹波はプロレスラー梶原に敗北し、鍛え直して三年後、リベンジを果たす。ぬいぐるみを着ることでプロレス関係者の警備網を抜け、リングに立つところが笑いを誘う。シュールなようで、大真面目。自分の執った方法を下らないとか恥ずかしいとは微塵も思っていないところ、「プロレスラーは観客がいた方が力を発揮できると聞いた」と述べているところから、最高の梶原を相手にリベンジしてこそと考えているのだろう。以前の敗北で悲鳴を上げてしまった屈辱をきっちり晴らす(そして返す)ことでこそ勝利を飽食できると考えたに違いない。リベンジマッチというものは勝つことだけが目標ではないところが難しい。


【2~3巻】丹波文七vs藤巻十三

続いて、竹宮流の藤巻十三と闘うパート。
(藤巻はなぜか北辰館の空手家に立ち合いを挑んでいく。登場時は正体が明らかとなっていないし、丹波文七っぽく見えるので丹波が辻斬りをしているように見えるのだが、正体が分かってみると不可解な行動に映る。彼の目的は丹波文七、姫川努、松尾象山を倒すことであって北辰館の門下生と闘うことは意味がないような……。目的としている三人の内の誰かを誘い出す作戦と見ようにも、納得できないものが残る。三人とも空手畑だから門下生で試し割りしてみたというところか?
姫川や松尾象山をその気にさせるための挑発行為か?)

藤巻が北辰館の門下生である倉沢守次をあっさり倒してのけるエピソードだが、倉沢が藤巻に投げられそうになって受け身を取ろうとするものの、地面よりも先に電柱に頭を強打するために受け身失敗するところに戦略性が見られて面白い。

丹波と藤巻が立ち合うところも興味深い。見開きでの両者の構えが対蹠的だ。丹波は打撃の構えでリズムを取る。藤巻は関節を狙う構えでどっしりしている。更に、格闘中も『間』が描かれていて、どちらが強いかということはそこから決定されるところがこのマンガのいいところだ。少年漫画だと気合いやなんやかやが勝るかどうかのご都合主義になるところだが、『餓狼伝』にそれはない。


【3~4巻】

おおざっぱに、次はプロレスラー長田弘が北辰館へ単独で殴り込むところだ。「FAWの長田か」と訊かれて「長田弘個人だ」と答えるところが爽快だ。殴られても殴られても耐え、投げ一発で逆転する豪快さからも伺える心意気に魅了される。強靱な肉体で勝つ、しかし圧倒的なパワーをただ見せつけるのとは違って単調さのないシーンが清々しい。

長田が二人目を沈めたところで館長の松尾象山が現れる。「誰に勝ちゃ…北辰館に勝ったといえるのかな」という長田の問い掛けに松尾象山が「キマってるじゃないか。この松尾象山にさ」と答えるところがまたインパクトがある。鱈子唇、広い顎、広すぎる肩幅、恰幅のいい松尾象山の格好いいポーズ、実に華がある。長田が大人しく帰ったのも、そういった華を見せつけられたためだ。


【4~5巻】

竹宮流を学んだ丹波文七は北辰館三段の堤城平に引き合わされる。堤はヤクザの男二人を「十分余力を残した一呼吸」で片づけたり、二回り以上ある巨漢を相手に瞬殺してみせたり、巨漢レスラーのアームロックから脱出して肘を折ったりと、小兵とは思えない強さを見せつけるシーンがたびたび登場する。

が、丹波と堤の対戦が成り立つ前にFAWのグレート巽(たつみ)の回想となる。


【5~8巻】グレート巽vs泣き虫(クライベイビー)サクラ

バキシリーズならば範馬勇次郎という最強の代名詞的な男がいる。『餓狼伝』はどうかというと、松尾象山とグレート巽が最強候補だ。そのグレート巽の武勇伝が、彼の夢であるかのように回想される。グレート巽vsクライベイビー・サクラのパートだ。
(繰り返し言うが原作は読んだことはない。きっと原作にはサクラは登場しないだろう)

常人の20倍のカロリーを必要とする(単純に20人力と受け取れる)盲目の男、それがサクラだ。盲目であることはハンデにならない洞察力を持っている(盲目なのに洞察とは妙な表現だが)。それまで圧倒的な強さで描かれていたグレート巽に「人類と闘う気すらしない」といわしめる。そこでグレート巽は策を練る。

ところで、グレート巽は明らかに猪木をモデルとしている人物だ。一方、バキシリーズでも猪木をモデルとした猪狩完治というプロレスラーが登場する。猪狩はハッタリの男で、勝つためにはどんな汚いこともする。彼が策を講じる姿は弱者が強者に挑む知恵として、闘争としての不純物のように見えるのに対し、グレート巽の策は不思議と闘争に純粋な姿として映る。どちらも猪木をモデルとしているのに片方には華がないのだなァ……。

盲目のサクラに、グレート巽はどぎつい臭いと音の奇襲をかけ、機先を制する。しかしそれでもサクラは圧倒的で、グレート巽は左腕を折られてしまう。万策尽きて、勝るものが何一つ見あたらない窮地。そこでグレート巽が何に勝機を見いだし、いかにして敵を出し抜くか、実際に読んでもらいたい。


【9巻】鞍馬彦一vs久我重明

そして鞍馬彦一が登場する。グレート巽の後継者として育てられてきた秘蔵っ子が、北辰館のトーナメントに出場するよう命じられ、黒ずくめで空手にも実戦にも玄人の久我重明が、身体能力抜群だが空手は素人である鞍馬彦一と組み手をする。予想されるとおり、久我重明の圧倒的な強さが痛快であり、鞍馬彦一の学習能力の高さを印象づける展開になっている。


【10~11巻】丹波文七vs堤城平

いよいよ丹波文七と堤城平の試合に入る。

プロレスのリングの上での対戦が決まった丹波は「いても立ってもいられなくなって」堤に会いに行く。堤は対戦相手が丹波だと知らなくて丹波は当惑するも、堤が「相手が丹波文七だというのなら願ってもないことだ」と言われて喜ぶ。そして、走り込みによって汗だくになっている堤を見る内、丹波の胸の内にある衝動がわき上がる。

「闘(や)りてェ」と。

この下りが最高に面白い。まるで恋人とのデートを待ちわびるような丹波の行動も面白いが、相手を見る内に、殺意や敵意とは全く違った純粋な闘争意欲がわき上がり、その突発さに丹波本人が驚愕している顔をしているところ、それを描けているところが、さすが板垣先生といったところ。

それにしても、「闘(や)りてェ・・!!」だなんて心理は体験したことがない。これは果たして競技者がもつ心理なのだろうか?
闘争することに疲れ切ってしまっている私にはとうてい分からない心理だ。だからこそ現実にはこの心理はないと、誤解を恐れずに断言してしまおう。きっと性欲をそのまま闘争欲に置き換えることで表現したのだろう。それとも板垣先生は体験したことがあるんだろうか?

話を元に戻す。この二人の対戦は漫画『餓狼伝』屈指の名勝負となっている。板垣漫画の魅力はカタルシスが用意されていることだ。対戦者がそれぞれ根こそぎ全てを使って比べ合うところに開放感がある。殴り合う。殴りあい続ける。それなのに単調さがない。スピード感に溢れている。

丹波文七は真っ先にダウンを喫する。そのことについて、これが野試合なら自分は負けていたのではないかと一瞬考えるが、そうではないと自ら断じる。ルールを承知でリングに立つ以上、そこにもしもはない、と考える。堤にしても同様だろう、さもなければ真剣勝負を絶対条件にしている男がリングの上に立つはずがない。

試合中の心中の言葉はバルーンに収まるものとそもそもバルーンを持たないものの二種類に分けられ、刹那的な時間に二重三重の思考が電気的、反射的、無意識的に行われている様が表現されている。漫画は絵で表現するものだが、絵だけで表現するジャンルというわけでもないし、テキストも効果的に使えてこそよき漫画家だろうし、なにより様々な吹き出しが存在する以上は、絵とテキストの双方があってこそやっと漫画として表現されることが可能となる。つまり漫画でもテキストがある方が深い作品が生み出せる。しかし試合中に多くを語るのはリアルではない、となるとここでのテキストの用い方は真っ当すぎるほど真っ当にして効果的だ。


【11~12巻】

鞍馬彦一は北辰館の大会がデビューとなるはずだった。それはセンセーショナルで、インパクトのあるデビューとなっただろう。グレート巽はそれを最大の演出効果と考えた。しかし、鞍馬本人は更に上の演出を思いつき、実行する。

まず梶原年男を倒し、それをリングへ投げ込む。「あの梶原を容易く倒してゴミのように放り投げるなんてどこのどいつだ?」と客を引きつける。

これによって、柔道家の真の世界一と目される船村弓彦を真剣勝負で倒せば格闘技能者としての実力も保証される。

これらの演出をして注目度が高まっていればこそ北辰館の大会での注目度が増すのだ!

……ということなんだろうか?
よく分かりません。


【12巻】

体育会系というのは厳しいものだが、その中でも格闘技となると恐ろしいものだ……。逆らいがたい上下関係ゆえにイゴーリー・ボブはグレート巽に真剣勝負を挑むはめに。災難だとは思うが、ボブ本人も茶番には不満があったようだし、シュートを挑む際も気迫十分だったところから、災難だと慰める方が失礼に当たるんだろうか?

それはそうと――

真剣勝負(しんけんしょうぶ)だッッ

真剣勝負(シュート)だッッ

真剣勝負(ガチンコ)だッッ

真剣勝負(リアルファイト)だッッ

と見開きで客がコールするシーン。ルビを変えて使い回される言葉が客のテンションの高さを伝える。言葉遊び的な面白味を感じてしまう。


【13巻】

グレート巽が丹波文七に会いに部屋を訪ねてくるのだが、ここもまたセクシャルな読み方ができる。魅力的な男を欲する姿はそのまま色男を欲する同性愛論者の如くだ。それとも執拗で、熱烈で、震えがくるような願望の域に達すると色欲と変わらなく見えてしまうのだろうか?

そして後半、いよいよ北辰会オープントーナメントが始まる。長田が初っぱなから心意気を見せ、読者も魅せられるシーンがあるが、そのあとで松尾象山が美味しいところをかっぱらっていく。というか、長田は松尾象山と相性が悪いような気がする。松尾象山の持つ華に気圧され、完全に呑み込まれて丸め込まれている。心意気でいったら松尾象山も負けていないからか……。


【14~15巻】北辰会空手大会一回戦

北辰会館で開かれる空手道オープントーナメント。

顔面への打撃あり。

寝技、関節技の制限なし。

その第一回戦の魅力は、だらだらと続くことはないスピーディな展開。真剣同士で立ち会っているような緊張感がイイ。

 

 

長田弘(プロレス)vs加山明(空手)

空手家・加山明のせっぱ詰まった心理が板垣先生らしい手法で描写されている。技が通じない焦燥感、空手への猜疑心、テンパってる様子、狭くなった視野で一気呵成に仕掛ける場面。鮮やかとしかいいようがない。そして恐ろしいほど素早くページがめくられていく(笑)

上段廻し蹴りを躱しざまに仕掛ける長田のバックドロップ(スープレックスにしか見えないが)は、いっそうスピーディにページをめくらせる(笑)。

見開き一ページで掴みかかる。

次の一ページでがっちりキャッチ。(見開き一ページに比較するとコマの範囲が半分となり、「圧縮」されたような、強く掴んだ印象をもたらしているッ……のかな?)

で、ほぼ同じ瞬間の長田の顔をアップで一ページ使う。(ジョジョなら丸い枠のコマでさりげなく示すところを板垣先生はまるまる一ページ使う豪快さ)

そして加山の顔を正面から映すのに一ページ。

加山の後頭部のアングルから一ページ。

加山の顔を正面から映す見開き一ページッッ!
(どんどんアップになっていく!)

さらに見開きでッッ!
(加山の顔が透け、背景が見えてくる)

まだ見開きだッッッ!!
(ついに加山の顔が映らなくなる!)

視界が暗転気味の見開きッッッ!!!

暗転ッッッ!
やはり見開き一ページッッッ!

真っ暗「……」で一ページ……。

こんな漫画、見たことねえ……。

 

 

井野康生(柔道)vs加納武志(空手)

空手家の後ろ廻し蹴りをあっさりと変則的投げ技で対処してしまい、柔道家に軍配が上がる。

いかにも漫画的な決着……。

実際の空手家と柔道家の対戦だとどうなるんだろう。ローキックをカットできなくて柔道家の負けなのか、それとも……?
(ワカランね)

 

 

君川京一(空手)vs川田治(テコンドー)

実際、テコンドーって異種格闘技ではどれくらいやれるんだろう?

なんにしろこの二人は魅力のないキャラなのでパス。下段廻し蹴りで空手家の勝利。

 

 

工藤健介(空手)vsラクチャート・ソーアジソン(ムエタイ)

板垣漫画にとってムエタイは最大の鬼門(ムエタイにとって鬼門)ということは常識。

ムエタイが勝った試しがない。

しかし板垣先生が書くムエタイファイターが弱いわけではない。描写はあくまで現実的だ。鋭いローキックがきちんと表現される。ただ、板垣漫画で「強い」ということは現実的レヴェルを越えているということだ。空手家が相打ちによる正拳一発で試合を終わらせた。

……。

いやぁ、このムエタイ選手なら体重45キロ差くらいものともしない闘いぶりをみせてくれると思うのだが……。奥歯二本折られても平気な顔をしている怪物が相手じゃ分が悪かったか。

 

 

片岡輝夫(空手)vs会田勝(空手)

大会は北辰館が開催しており、他流の空手家は少数派。そのうちの一人が志誠館の片岡。会田の空中殺法を額で迎撃しての勝利。全身、これ凶器といったスペックと動乱の世に生まれたかのごときメンタルが非常に魅力的。短い試合展開でキャラの魅力をしっかり伝える辺りが板垣節のスゴいところ。

 

 

門田賢次(空手)vs???(名前不明、流派不明)

速攻で試合が終わったそうで。

 

 

安原健次(キックボクシング)vsドルゴス(空手)

北辰会館ウランバートル支部、ドルゴス。って、空手家なのだが、それ以前にモンゴル相撲横綱だったそうで。方やキック、方や巨漢となh4と、工藤健介vsラクチャート戦が思い浮かぶ。しかし結末は逆で、キックの勝ち。

板垣漫画では間合いの微妙なさぐり合いが表現されることはなく、今回もそれは同じ。それでも勝因を考えるに、キックの方が距離の取り方をよく心得ていることが挙げられるんだろうなー、と勝手に考えてしまう。絶妙な間合いの測り方、夥しい連繋・連打、反則技、容赦のない追い打ち――安原は技術で勝った。でも、そういう闘いだったように描写しない。だからスピーディに読めてしまうんだろうなぁ(よい意味で)。

 

 

立脇如水(空手)vs鞍馬彦一(プロレス)

前回優勝者を一回戦で敗者にしてしまうとしたら、そのような大波乱は相当エキサイティングな展開だ。普通は恐ろしいまでのインフレを予感させるか無茶な理屈にしらけさせられる。しかしこの試合では特にそれを感じない。恐ろしいまでに立脇から強さのファクターを感じない(笑)

板垣節の説得力を必要とするまでもない。鞍馬の身体能力、レスリングの高速低空タックル、マットの上というタックルの抵抗にならない環境。これだけ揃っていれば、顔面なしルールに慣れていた空手家が初見で鞍馬のタックルを見切れるはずがない。

鞍馬の低空タックルを、立脇は下段の蹴りで迎撃しようとするが、はずれる。これは鞍馬が避けたのか立脇が狙いを外してしまったのかいまいち分からないが、私は立脇が外したのだと解釈している。

で、低空タックルから回し蹴りに変化し、この打撃一発で立脇はダウン。

ここで敢えて終わらなかったところに板垣先生流の説得力というか、ごまかしがある。実際はここで勝負が付いていたのであって、長引かせようと結末は同じなのだが、長ければ長いほど善戦したように読めてしまうし、鞍馬がプロレスするところを見せつけられてオイシイ。はじめからプロレス技をしかけては、相手が前回優勝者ということもあってさすがに説得力がないが、一度ダウンして回復し切れていないところに仕掛けるのなら問題なし。

 

 

サレクセイ・コッホ(サンボ)vs遠野春行(空手)

サンビストのタックルをつぶし、膝蹴りで空手家の勝利。

タックルのつぶし方のお手本みたいな流れ。そんなうまくいくのだろうか。

 

 

畑幸吉(古武道)vs宮戸裕希(空手家)

主人公の丹波も古武道の使い手だが、それとは別流派の古武道の使い手である畑の登場。

苦戦の末に関節を極めて勝つ姿には、余裕が感じられない。

勝ち方は地味だが、この漫画における古武道の地位は高いので、一回戦突破がすでに今後の名試合を予感させる。

 

 

椎野一重(日本拳法)vsカルロス・バジーレ(空手)

カルロスが、もう、ほんとに謎。空手歴二年で、それ以前はボクシングをやっていたらしい。しかし戦術にタックルを盛り込んでいる。もしかしてブラジリアン柔術もできるとか?

そんなカルロスを一撃必倒。

リアル志向の漫画なのに……、ただの突きなのに……、なんて魅力的!
ロボットアニメの必殺技を凌駕する華を感じる。それというのも解説王・梶原の業績か。

 

 

竹俊介(グローブ空手)vs畑中恒三(レスリング)

レスリングの勝利。

プロレスラーやサンビストはいても、タックルを本職中の本職としているレスリングの使い手は畑中一人。

 

 

神山徹(伝統派空手)vs志門剛俊(空手)

「伝統派 対 実践派」

「寸止め 対 直接打撃制」

「古流空手 対 現代空手」

板垣節が一つ、同一の対象物を様々な表現で連呼する技法。単純にして効果は絶大。この盛り上げ方をするときは作者もノッてきている証拠。

当てないで勝つってのは、正直、めちゃくちゃ難しい。何がって、読者を納得させるのが。

普通なら、「寸止め空手の相手がなんか勝手に負けを認めてしまう腑抜けってだけじゃねーか」と揶揄されてしまう。それをさせないための板垣先生の(恐らく無意識的であろう)工夫は、対戦相手の性格の設定と試合終了後の松尾象山の台詞だ。

志門は神山と対面し、神山の方が先に打撃を当てる技量を持っていると見抜く。驕りのない高い分析能力が逆に彼の冷静さと強さを示す。さらには、先に打撃を受けることに対して、「だからどうだってンだよォッッ」と相打ち覚悟の攻撃を繰り出す勇気も示す。それでもその攻撃を最後まで振り抜けない。否ッ、振り抜かせないッ!
すなわちすべてが神山の実力であると見せかけられる。対戦相手が勝手に悟って敗退したとは映りにくくなっている。さらに松尾象山から審判に向けられた言葉「俺(オイ)らのカワイイ弟子ィ殺すつもりかよ」によって志門が敗北を認めたことに対する説得力が強制的に生じる。

かくして気持ちよく試合は終わる。

 

 

チャック・ルイス(ボクシング)vs瀬津浩二(空手)

ヘヴィ級ボクサーは強い。その概念そのもののような闘いぶりのルイス。ジャブ一本でKOとは痺れる。

なんか、もう、同じことばかり書くけれど、すべては板垣節だ。きンもちイィ~んだ。

ヘヴィ級ボクサーのジャブについて、

「早いハナシが正拳逆突きが反射神経を凌駕する速度で飛んでくる


ノーモーションで矢継ぎ早に……」

とか説明されたら堪らない。

 

 

仁科行男(サンボ)vs八木正美(空手)

遠野春行はサンビストのタックルをつぶしてから仕留める戦術だった。八木はそもそも掴ませまいとする戦術。多彩な打撃で仁科を寄せ付けない。しかし仁科は打撃を浴びせ、関節を極め、勝利する。苦戦しつつも勝つときは流れるように鮮やかな動き。この爽快感が今大会一回戦に共通する魅力だ。

 

 

姫川勉(空手)vs早川満(キック)

超絶の回避スペック。柔軟で優雅な蹴り技。姫川、登場して以来はじめて決着の付いた試合だった。

 

 

【16~18巻】北辰会空手大会二回戦

二回戦からは戦うものの主義主張、信念、理想が少しずつ選手本人の口から語られることとなる。単純にどちらの格闘技能の方が上かを競っていると見るより、信念や思想を賭けて闘い、それが現実に通用するか否かを残酷なまでに徹底的に実験しているように見える。場合によっては思想を語る試合の前振りが試合よりも面白い。


長田 弘(プロレス)vs井野康生(柔道)

空手の試合とは思えない。

柔道家が投げ、プロレスラーがそれを受け、耐える。そういう試合形式にルール変更があったかのような展開。

実際、井野のなかではそういうルールができあがってしまっていたのだろう。

しかし長田は二人の間に生じた特殊ルールの勝ちに拘り続けることはなかった。このあとに「今日の今日は勝ちに徹しますッッ」という台詞を吐いたことからも分かることだが、試合の勝ちに徹した。思い出したように井野も試合での勝利を目指し、直立のままの相手に三角締めを極める。しかし長田は井野をマットに叩き付け、勝利する。

実力的には井野の方が勝っていたんだよ的なフォローが試合後にあり、ベタだがオイシイ。


君川京一(空手)vs工藤建介(空手)

同門対決。

連打 対 一撃。

君川の読みを上回る読みを見せた工藤の勝ち。でかいだけじゃなく、すばしっこくて器用な小兵を撃退するための知恵を持っている。

しかしあんまり魅力的な試合じゃなかったな……。


片岡輝夫(空手)vs門田賢次(空手)

今度も空手対決だが、同門ではない。二人は空手を楽しむことを旨とする点で一致し、その方法論が合理的か狂気的かで異なっている。思想性を天秤にかけた闘いだ。

真っ当な空手。クラシックな空手が展開される。

片岡の勝ち。


安原健次(キックボクシング)vs鞍馬彦一(プロレス)

信念ではなく女を賭けて闘い始める二人。

しかし試合内容は信じるもののぶつかり合い。

技術やキャリア以前に前提となる数値(恐らく体格やスタミナのこと)が違うとのたまう鞍馬。

一度は圧倒され場外に押し出されるも技術で盛り返す安原。

しかし鞍馬は安原を捉え、ヘッドロックを敢行し、勝利。


遠野春行(空手)vs畑幸吉(古武道)

長田vs井野戦のように、敗者を「負けてもなお強い」としてその質を落とさせない描き方がある。

今回もそれ。

闘争意欲は十分だが審判の判断によって試合が終了するパターンだ。


椎野一重(日本拳法)vs畑中恒三(レスリング)

打撃、それもコンビネーションではなく、最短を駆け抜ける直突きへの信頼を語る椎野。

反復訓練、局部鍛錬、試し割などを否定し、強くなることへの密度を語る畑中。

両者魅力的な思想の持ち主で、そのスタイルは打撃系と組打系で対照的。

決着は椎野の二発目の直突き。前蹴りから直突きへと繋いだり、二連発の直突きとなったりと、初動で終わらせるという思想性は全うできなかった。


神山徹(伝統派空手)vsチャック・ルイス(ボクシング)

寸止め空手の神山の二回戦。

やっぱり、当てないまま勝つのは無理がある。

相手は日本人じゃないから空気を読んでもくれない。

神山は打たれ続ける。

最後は松尾象山の介入でルイスが負けを認める。

う~ん……

巧みな防御技術と、寸止めとはいえ拳の圧力でルイスの全力の打撃を封じていた節はあるものの、ヘヴィ級ボクサーの打撃を受け続けて倒れないところは納得できない。ルイスも、素直すぎ。しかし裏を返せば、寸止めしない神山には絶対に勝てないと明確に悟っているということか。そこまで強いのか、神山徹。


姫川勉(空手)vs仁科行男(サンボ)

空手技だけじゃない。跳びつき逆十字だってできる。どんなけハイスペックなんだよ。

姫川の独壇場。ダメージすら与えずに勝利。ある意味寸止め。しかも神山のように相手に悟らせるのとは違って、試合ルールを最大限に利用した狡猾な罠だった。

 

 

【18~20巻】北辰会空手大会三回戦

魅力的なキャラクターばかりが残ってしまった三回戦。

もっとも目が離せないところだ。


長田 弘(プロレス)vs工藤建介(空手)

ただの巨漢というと言い過ぎかもしれないが、これまでの工藤の描写は地味だった。しかしそのパワーがヒグマ級という怪物ぶりが明かされる。ヒグマのパワーに空手のテクニックを搭載した優勝候補。

試合開始直後、長田は工藤の圧力を感じる。工藤の連打に防戦一方。絶大な破壊力に若干臆しながら耐える。そして工藤はまさかのドロップキック。長田、場外へ。空手家にプロレス技を許すという皮肉。これによってプロレス道に目覚めた長田は工藤の攻撃を防御せず受けきる。耐え、間合いに入り、長田の竹宮流「雛落とし」が炸裂する。

ただでさえ強烈な工藤の攻撃を、押されっぱなしだった長田が防御もせず受けきるというのは無茶苦茶で、少年漫画的な展開だ。しかしそれをやってのけてこそプロレス道ということか(?)。一発逆転の爽快感はある。

ちゃちといえばちゃちな展開(燃えるけど)。しかし描写すべき点はしっかり描写されている。工藤の破壊力、一発一発の重み。長田が柔道でいう片十字絞めで組み付いたときの工藤の表情。組み付かれたままはまずいとボディを連打するも離れぬ長田に焦燥する工藤の表情。相手の体勢を崩し、背負いで投げようとする長田だが、工藤はこれをかろうじて自護体気味に防いでいる。長田の動きは一瞬止まるが、そこから「い…ッッ やあァアアアッ」と投げ飛ばす(つまり、雛落としという技に救われつつも勝因はタフネス&パワーなのだ)。そして投げ飛ばされる工藤が投げる長田と目が合う一瞬の両者の表情(長田は鬼のよう)。あっという間に読み終わってしまうスピーディな読後感があるが、その実、細かい駆け引きや間の描写があった。


鞍馬彦一(プロレス)vs片岡輝夫(空手)

ガッチガチの武道家である片岡がプロレスをやっているように見せかける鞍馬の手腕が見所。鞍馬はいちいち片岡の心理をよく見抜いている。長田とは違う意味で、はじめは受けてみせるあたりはプロレスラーだ。

片岡の武への精神性は、これまでの試合でかなり魅力的に描かれてきた。相手が複数かもしれないという実戦を想定している姿勢、蹴りを顔面にもろにくらっても倒れない耐久力。そのストイックな姿勢は美しい。これほど美味しく熟成させたキャラクターを板垣先生は他の漫画家には絶対にできないやり方で調理している。空手の大会で、真面目に空手をしないというのに、こんなに面白い話になるなんて。

彼の強さを劣化させることなく、なおかつプロレス(ショーマン的行為)をさせておいて負かすなんて。(しかも鞍馬を実質、戦闘不能状態に追いやっている)


椎野一重(日本拳法)vs畑幸吉(古武道)

『餓狼伝』という漫画は、格闘漫画やバトル漫画において主人公が不要であることを証明した実験的な漫画であるッ!(とか断言しちゃったりして)

それは言い過ぎにしても、主人公・丹波に出番がなくとも物語は面白く進んでいる。その丹波がどうにか絡んできたのがこの試合。流派は違っても同じ古武道を使うものとして畑に助言を送る。不意打ちしろと。畑はそれを承知する。しかし丹波の思惑では試合開始直前が好機だったが、畑の考えは試合開始直後だった。直突きを受けながらも正面から相手の帯を緩めることに成功する。試合のルールに従って帯を直す椎野。試合場に膝を突いた姿勢でいる彼の隣に畑もまた膝を突く。これが畑の考えた奇襲!
寝技がありならば座したまま試合再開もありという無茶な理屈を通して、通常ではあり得ない試合展開に飲み込む奇策だ。

しかも、座した状態に微塵も狼狽えない椎野の蹴りを、丹波すら使うのを避けるよう忠告した古武道の技で受けての決着。


神山徹(伝統派空手)vs姫川勉(空手)

そりゃあねえよ……。

ヘヴィ級ボクサーを寸止めで敗退させるほどの実力者が全く相手にならないなんて、姫川、強すぎ。それはないだろう……。

寸止めを捨てた神山に、当てるよりも心に痛い寸止めを実行する姫川って、えげつない。格闘家が相手を攻撃するのは当たり前だが、あまりにサディスティック。

美味しく育った神山というキャラクターを、姫川の引き立たせ役として調理してしまったのは、もったいないなー、と……。

 

 

【20~21巻】北辰会空手大会四回戦

格闘漫画的な意味であんまり盛り上がらなかった。接戦や名試合はなかった。


長田 弘(プロレス)vs鞍馬彦一(プロレス)

ベストコンディションなど望むべくもない。それでも銭を取れる仕事をする。

……。

社会人って(いや、会社人か)、辛いよね……。というお話(ではないけれど)。

やはり鞍馬は長田を相手にできる身体ではなかった。といっても、言い訳か。グレート巽は腕が折れた状態で怪物サクラに勝ったのだし。


畑幸吉(古武道)vs姫川勉(空手)

神山が触れることすら叶わなかった姫川の腕を掴む畑。畑がいくら強くても、これは可能なのだろうか。打撃を躱すのと掴んでくる腕を躱すのとではまた違ったのだろうか。

なんにしろ姫川は無傷で勝利だし。本人は紙一重だったって顔をしているが、畑との二度目の接触のときは容易く撃退していることから捕まってしまったのは何かの間違いと自分でも思っているんだろうな。完璧であるもののその強さに説得力がないために苛々としてしまう読者は多いんだろう。

 

 

【21巻】松尾象山vsチェ・ホマン

ひでぇっ……!
日本人ひでぇよ。

さんざん挑発しておいて、服を捕まれたなら「先に手を出したのはこいつ」とのたまい、喧嘩に持ち込む松尾象山。工藤も真っ青の打撃でチェ・ホマンはマットに沈んだ。

モデルのチェ・ホンマンは嫌いだけど、漫画のチェ・ホマンには同情する。